夏の果物には、旬の短いものが多い。
甘くておいしい時間は、ほんの一瞬だ。
私はマンゴーが大好き。
完熟したマンゴーの濃厚な甘さを味わうと、「夏だな」と感じる。
『真夏の果実』というタイトルを聞くと、私はまずそんな夏の果物を思い浮かべてしまう。
シングルジャケットも、最初はマンゴーを半分に切った姿に見えた。
でも、実はそうではないらしい。
そして曲を聴くと、甘くて明るい「夏」のイメージとは少し違う。
『真夏の果実』が描いているのは、過ぎていく夏と、終わりを感じさせる恋の切なさだ。
夏に実る果実は、とても甘くておいしい。
けれど、放っておけばやがて熟しすぎて傷んでしまう。
そんな果実の儚さと、激しく燃え上がり、やがて過ぎ去っていく夏の恋。
桑田佳祐さんは『真夏の果実』で、夏の終わりに残る恋の切なさを描いたのではないだろうか。
1990年に発売されてから長い年月が過ぎた今も、『真夏の果実』は世代を超えて聴き継がれている。
この記事では、映画『稲村ジェーン』との関係や桑田佳祐さんと小林武史さんが作り上げたサウンド、そして歌詞から感じる切なさについて考えてみたい。
映画『稲村ジェーン』の主題歌として大ヒット
『真夏の果実』は、1990年7月25日に発売されたサザンオールスターズの28枚目のシングルだ。
同年9月に公開された映画『稲村ジェーン』の主題歌として使われた。
映画は桑田さんが監督と音楽を担当し、観客動員数は約350万人を記録している。
映画の舞台は、1965年の鎌倉・稲村ケ崎。
サーフィンや若者たちの恋、友情を描いた作品で、桑田さんは映画のために10曲以上の新曲を書き下ろした。
その中から生まれたのが『真夏の果実』や『希望の轍』だ。
私の好きな『希望の轍』も、この映画から生まれた曲。
そう考えると、『稲村ジェーン』という映画がサザンの音楽に残したものは、本当に大きかったのだと思う。
そして『真夏の果実』は、ただ夏を描いたラブソングではなく、桑田さんが映画というそれまでとは違う世界に飛び込み、慣れない現場で抱えていた心情をも歌詞に映されているという。
だからだろうか。
この曲を聴くと、夏のまぶしい風景よりも、過ぎてしまった時間や、もう戻れない恋の切なさを感じる。
ほんと、涙が出るんですよね。
桑田佳祐と小林武史が生み出した奇跡のサウンド
『真夏の果実』を語るうえで欠かせないのが、桑田佳祐さんと小林武史さんの存在だ。
作詞・作曲は桑田佳祐さん。
編曲はサザンオールスターズと小林武史さんが担当している。
公式サイトの楽曲データーを見ると、小林武史さんはキーボードでも参加している。
小林さんと言えば、後にMr.ChildrenやMy Little Loverなど、多くのアーティストの音楽に関わった音楽プロデューサーとして知られている。
『真夏の果実』、私はまずイントロから引き込まれる。
イントロを聴いただけで、”あっ、この曲”とすぐ分かる。
静かに流れるメロディーに桑田さんの歌声が重なると、一気に『真夏の果実』の世界に引き込まれる。
桑田さんの声って、明るい曲ではあんなに楽しく聴こえるのに、切ない歌を歌うと、どうしてこんなに哀愁があるのだろう。
力強さと優しさ、そして少しかすれたような独特の歌声が、この曲の切なさをさらに深くしている。
桑田さんが作った美しいメロディーと、サザンオールスターズ、小林武史さんによる繊細なアレンジ。
そこに桑田さんの歌声が重なったからこそ、『真夏の果実』はこんなにも心に残る曲になったのだと思う。
『真夏の果実』歌詞の意味を考察/なぜこんなに切ないのか
『真夏の果実』は、歌い出しからすでに悲しみに包まれている。
そこに描かれているのは、恋の真っただ中にいる二人というより、もう戻れない時間を思い出している人の姿ではないだろうか。
悲しい時、誰かに抱かれる夢を見る。
泣きたいほどつらいのに、その気持ちをうまく言葉にできない。
外には冷たい雨が降り、胸の中には今も過ぎ去った夏が巡っている。
季節はもう夏ではないのかもしれない。
それでも心だけは、あの夏から抜け出せずにいるように感じる。
そして歌詞は、忘れられない相手への強い想いへと進んでいく。
もう会えないのか。
それとも、そばにいても心は離れてしまったのか。
歌詞には二人がなぜ別れたのか、はっきりとは書かれていない。
だからこそ、自分の過去の恋や忘れられない人を重ねてしまうのだと思う。
この曲には、熱さと冷たさが同時に出てくる。
真夏なのに、どこか凍えるような冷たさがある。
私はこの対照的な表現に、恋をしている時のどうしようもない感情を感じる。
好きでたまらない。
それなのに、その恋は幸せだけではない。
近づきたいのに届かない。
忘れたいのに忘れられない。
そんな矛盾した気持ちが、この曲の切なさを深くしているのではないだろうか。
そして『真夏の果実』というタイトル。
甘く熟した果実のように、二人の恋にも一番輝いていた時間があった。
けれど、熟した果実がいつまでもそのままではいられないように、恋にも終わりが訪れる。
だから『真夏の果実』を聴くと、楽しかった夏よりも、過ぎてしまった夏を思い出すのかもしれない。
桑田さんは、映画『稲村ジェーン』という慣れない世界に飛び込み、その現場で抱えていた心情が『真夏の果実』の歌詞にも映されたという。
そう知ってから聴くと、この曲の切なさは恋愛だけではないようにも感じる。
思うようにいかない苦しさ。
言葉にできない孤独。
それでも忘れられない時間。
『真夏の果実』は、ひと夏の恋を描きながら、誰の心にもある「もう戻れない大切な時間」を歌った曲なのではないだろうか。
名曲『真夏の果実』が愛され続ける理由
『真夏の果実』は1990年に発売から長い年月が過ぎた今も、多くの人に聴き継がれている。
美しいメロディーと桑田さんの切ない歌声。
そして、聴く人それぞれが自分の思い出を重ねられる歌詞。
若い頃から聴いている人は、あの頃を思い出し、初めて聴く世代には新しいラブソングとして届いていく。
私もこの曲を聴くと、やっぱり胸が締め付けられる。
夏が来るたびに聴きたくなる。
『真夏の果実』は、これからも世代を超えて聴き継がれていく名曲なのだと思う。


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